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東京地方裁判所 平成5年(ワ)14189号 判決

原告

中村ふじ子

ほか二名

被告

国際タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告中村ふじ子に対し、金二三万円及びこれに対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告中村安希に対し、金二三万円及びこれに対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  被告らは、各自、原告株式会社日本パツケージセンターに対し、金四五万八三二八円及び内金四〇万八三二八円に対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告らの勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告らは、各自、原告中村ふじ子に対し、金一八〇〇万円及びこれに対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告中村安希に対し、金一八〇〇万円及びこれに対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  被告らは、各自、原告株式会社日本パツケージセンターに対し、金一七七万八〇八〇円及び内金一五七万八〇八〇円(弁護士費用を控除した金額)に対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、車両同士の衝突事故で受傷しその後死亡した被害者の相続人(原告中村ふじ子及び原告中村安希)が、相手車両運転者の被告村田親美に対し、民法七〇九条に基づき、同車の運行供用車であり被告村田の使用者である被告国際タクシー株式会社(本件事故後、第一国際タクシー株式会社から商号変更したもの。以下、被告会社という。)に対し、自賠法三条及び民法七一五条に基づき、右受傷と死亡に伴う損害の賠償を求め、また、被害者が代表取締役をしていた原告株式会社日本パツケージセンター(以下、原告会社という。)が、被害者の事故による休業期間中の給与を立替払いしたとして、弁済者の任意代位(民法四九九条)又は事務管理(同法七〇二条)の法理の類推適用に基づき、被告らに対しその立替金相当額の返還を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

(一) 事故の日時 平成四年一二月二七日午前八時五五分ころ

場所 東京都台東区寿一―一二―五先交差点

(二) 加害者及び 被告村田親美

加害車両 普通乗用自動車(足立五五け四六五四)

(三) 被害者及び 中村義積

(昭和二三年六月五日生・本件事故当時四四歳)

被害車両 普通乗用自動車(足立三三は七二三三)

(四) 事故の態様 現場交差点において、浅草通り方面から春日通り方面に向かつて進行してきた加害車両が、交差道路左方の国際通り方面から清洲橋通り方面に向かつて進行してきた被害車両の右側面に衝突したもの。

2  被告会社の責任原因

被告会社は、加害車両の運転者である被告村田の使用者であり、加害車両の運行供用者である。

3  損害の一部填補

被害者の受傷に伴う損害については、以下のとおり、これまでに合計金三〇万七八九〇円が支払われている。

(一) 治療費及び接骨院施術費 金二九万六八六〇円

(二) 文書料 金六〇〇円

(三) 通院交通費 金一万〇四三〇円

三  本件の争点

1  被告らの責任及び事故とその後の被害者の死亡との間の相当因果関係

2  損害額

第三争点に対する判断

一  事故とその後の被害者の死亡との間の相当因果関係及び被告らの責任

1  原告らは、「被害者は本件事故が原因で平成五年三月三〇日に死亡したものであり、また、本件事故は、被告村田が対面の赤信号を無視して交差点に進入した(被害者の対面信号は青であつた)ことによつて惹起されたものであるから、被告らは被害者の死亡による損害の賠償責任を負う」旨主張し、被害者の受傷に基づくもののほか、死亡に伴う逸失利益と慰藉料や葬儀費用等の損害賠償を求め、これに対し、被告らは、本件事故と被害者の死亡との間の相当因果関係及び被告らの責任を争う。

2  よつて判断するに、関係各証拠(甲2号証、10号証ないし13号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故は、信号機により交通整理が行われている現場交差点において、被告会社の業務執行中に浅草通り方面から春日通り方面に向かつて進行してきた被告村田運転の加害車両が、対面信号が赤であるにもかかわらず交差点に進入し、おりから交差道路を国際通り方面から清洲橋通り方面に向かつて対面の青信号に従つて進行し交差点に進入してきた被害車両の右側面に衝突したものであることが認められ、また、被告会社は、加害車両の運転者である被告村田の使用者であり、加害車両の運行供用者であることは当事者間に争いがない。

してみると、被告村田は、交差点に進入するにあたり、対面の赤信号を無視ないし看過したことにより本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、また、被告会社は、被告村田の使用者及び加害車両の運行供用者として民法七一五条及び自賠法三条に基づき、本件事故で被害者が蒙つた損害について、これを賠償する責任があるものというべきである。

3  次に、本件事故と被害者の死亡との間の相当因果関係の有無について判断するに、甲10号証・11号証によつて認められるところの被害車両の修理代金額や損傷状況からすると、本件事故の衝突自体は必ずしも軽微ならざるものであつたことは推認されるが、他方、被害者の治療経過や死亡の原因等については、関係各証拠(甲3号証ないし7号証)によれば、被害者は、事故当日の平成四年一二月二七日に永寿総合病院で「頚椎捻挫、右下肢打撲」の傷病名にて治療を受け、その後、同日から平成五年一月一八日まで磯野外科病院で「頭部・右大腿部打撲傷、頚椎捻挫」の傷病名で五回通院して治療を受け、更に、一月一八日から三月一七日まで岩本接骨院で「頚部捻挫、右大腿部打撲」の傷病名で四八回通院して治療を受けた(なお、頚部捻挫は三月一七日に、右大腿部打撲は二月一七日にそれぞれ治癒と診断されている)こと、被害者は、その後の同年三月三〇日午後九時四二分ころ、慈恵医大病院において死亡するに至つたが、その際の死因は「急性大動脈解離」とされていること、以上の各事実が認められるのであつて、これらの事実関係に徴すると、被害者の本件事故による受傷は、この種の交通事故によくみられる頚椎捻挫や足の打撲傷といつた程度のものにとどまるものというべきで、急性大動脈解離という死因からしても、被害者の死亡と本件事故との間に相当因果関係を肯定することは困難であり、他に本件事故とその後の被害者の死亡とを結びつけ得るような証拠はない。

したがつて、被告らの本件損害賠償責任は、被害者の受傷に伴うものに限つてこれを認めるべきであり、原告らの本訴請求のうち、被害者の逸失利益・死亡慰藉料・葬儀費用についての賠償を求める部分は、被害者の死亡を前提としたものであるから失当というべきであり、結局、次項の受傷に伴う損害の賠償についてのみこれを肯認することができる。

二  損害額(被害者の受傷に伴う分のみ)認定総額 金一一一万六二一八円

1  治療費・接骨院施術費、文書料、通院交通費 合計金三〇万七八九〇円

既払いであり、当事者間に争いがない。

2  傷害慰藉料 金四〇万〇〇〇〇円

(原告らの主張 金八〇万円)

前示の被害者の受傷内容及び通院経過に鑑みて、被害者の傷害慰藉料としては、金四〇万円をもつて相当と認める。

3  休業損害相当分の立替金(原告会社の請求分) 金四〇万八三二八円

(原告らの主張 金一五七万八〇八〇円)

(一) 関係各証拠(甲8号証、9号証、13号証)によれば、原告会社は、プラスチツク包装品等の製造販売等を目的とする株式会社(資本金一〇〇万円で従業員は一〇名)であるが、被害者は、代表取締役の職に就き発行済み株式二〇〇〇株を全て所有し、同社の業務全般を統括するほか技術面の最高責任者として金型の設計や工場の点検・監督、得意先との交渉にあたり、かつ工場に常勤して従業員と同様の部品製造の仕事も担当していたものであること(なお、他の取締役や監査役といつた役員はいずれも名目的に家族や友人が就任していた)、被害者は、同社から月額六〇万円(年額金七二〇万円・日額金一万九七二六円)の給与を得ていたところ、本件事故により前示のとおり受傷しこれによる頚部痛等のため事故当日の平成四年一二月二七日から平成五年三月一六日まで八〇日間にわたつて休業を余儀なくされたが、その間、原告会社は、被害者に対し、給与として金一五七万八〇八〇円(日額金一万九七二六円の八〇日分)を支払つたこと、被害者の通院加療の経過は前示一・3のとおりであるが、岩本接骨院での通院加療は医師の指示によるものではないうえその間に医師の診察を受けていないこと、病院への通院加療期間は延べ二三日間で実日数は五日であること、以上の各事実が認められる。

(二) 右の事実関係に徴すると、まず、被害者の休業損害の算定の基礎となる所得については、その支払額(年額金七二〇万円)には役員報酬的な要素が含まれているはずであつて、労務対価部分は、右の原告会社の実態と被害者の役割等に鑑みて支払額の九割とみるべきであり、また、被害者の休業期間については、事故当日の平成四年一二月二七日から病院への最終通院日である平成五年一月一八日までの二三日間として、被害者の休業損害を算定すべきであると判断される。

したがつて、その額は、以下の計算式のとおり、金四〇万八三二八円となる(一円未満切捨て)。

7,200,000円×0.9÷365日×23日=408,328円

そして、この休業損害額(右に認定した金額の限度にとどまる)については、本来、被告らから被害者側に支払われるべきものであるところ、原告会社の出捐により一種の立替払いとして原告会社が被害者に支払つたものであるから、原告らが主張するとおり、弁済者の任意代位(民法四九九条)又は事務管理(同法七〇二条)の法理の類推適用により、被告らは原告会社に対して右金額を支払うべきことになる

三  既払金の控除と被害者の相続関係及び賠償残額等

1  被害者の受傷に伴う損害のうち、前示二・1の治療費・接骨院施術費、文書料、通院交通費の合計金三〇万七八九〇円が支払済みであることは当事者間に争いがない。

2  甲1号証によれば、原告中村ふじ子は被害者の妻、原告中村安希は被害者と原告中村ふじ子夫婦の間にもうけられた子であつて、他に被害者には相続人はいないことが認められる。

そこで、右両原告は、被害者の死亡により、法定相続分に従つて被害者の被告らに対する損害賠償請求権(前示二・2の慰藉料金四〇万円)を相続によつて各二分の一の割合(各金二〇万円)で取得したものということができる。

四  弁護士費用 原告中村ふじ子につき、金三万〇〇〇〇円

原告中村安希につき、 金三万〇〇〇〇円

原告会社につき、 金五万〇〇〇〇円

本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑みて、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、原告中村ふじ子及び原告中村安希につきそれぞれ金三万円、原告会社につき金五万円をもつて相当と認める。

第四結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、被告らに対し、原告中村ふじ子及び原告中村安希については、それぞれ金二三万円及びこれに対する本件事故発生の日である平成四年一二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告会社については、金四五万八三二八円及び内金四〇万八三二八円(弁護士費用を控除した金額)に対する右同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 嶋原文雄)

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